第四十六回宮城県俳句賞正賞作品

あたたかし  佐藤 信昭(駒草)

朝の日の眩しき水の淑気かな

蠟梅の散り際永き鳥の声

退院のこの世の坂のあたたかし

葉柳のそよりともせぬ地の乾き

薄き日に田水の匂ひ夏隣

ばら咲かせ五感萎えゆく健やかに

梅雨寒の雨音ひびく膝頭

梅雨湿る外して重き腕時計

呼鈴の返事のやうに夏うぐひす

花栗の無住の闇に匂ひ立つ

再会の駅のロビーの夏帽子

ボールペン重たき滝のひびきかな

ゆらゆらと夕べ揚羽の黒と黒

いが栗のまだ重さなきうすみどり

バス少し遅れ秋暑の午後三時 

灯を消してよりの畳の秋湿り

黙祷の年忌の菊の白さかな

林道の日の矢幾筋草の花 

予後十年生きて三年日記買ふ

真向へば眼恐ろし寒雀  

0コメント

  • 1000 / 1000