第四十四回宮城県俳句賞正賞作品

 狐  火    小田島 渚(銀漢・小熊座)

どこをどう辿りてもつく死や朧

卵ならそろそろ孵る春炬燵

春夜へと産み落とさるる黒き山羊

悲しみのみぞおち落花吹き溜まる

粉々に花瓶割るるは薔薇の怒り

五月鯉の目玉のなかに津波まだ

金魚玉世界いづこも歪みゐる

ぼうふらの沈むときこそきらきらす

百年を生きてやうやく蜜蜂に

夏闇の奥しやつくりが止まらない

尻尾ある子も一人ゐて落葉焚

楽器手に集まつてくる天の川

家系図を辿れば大綿の國に

型抜きに抜かれ白鳥つぎつぎと

世界中の時止めて鷹つばさ閉づ

肉体に革命ありていま海鼠

吠ゆることできず狐火あまた寄る 

襤褸市の値札のつかぬ空あをし

厨房には凍蝶のみのレストラン

撃たれたる記憶毛皮の全面に

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