狐 火 小田島 渚(銀漢・小熊座)
どこをどう辿りてもつく死や朧
卵ならそろそろ孵る春炬燵
春夜へと産み落とさるる黒き山羊
悲しみのみぞおち落花吹き溜まる
粉々に花瓶割るるは薔薇の怒り
五月鯉の目玉のなかに津波まだ
金魚玉世界いづこも歪みゐる
ぼうふらの沈むときこそきらきらす
百年を生きてやうやく蜜蜂に
夏闇の奥しやつくりが止まらない
尻尾ある子も一人ゐて落葉焚
楽器手に集まつてくる天の川
家系図を辿れば大綿の國に
型抜きに抜かれ白鳥つぎつぎと
世界中の時止めて鷹つばさ閉づ
肉体に革命ありていま海鼠
吠ゆることできず狐火あまた寄る
襤褸市の値札のつかぬ空あをし
厨房には凍蝶のみのレストラン
撃たれたる記憶毛皮の全面に
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