あたたかし 佐藤 信昭(駒草)
朝の日の眩しき水の淑気かな
蠟梅の散り際永き鳥の声
退院のこの世の坂のあたたかし
葉柳のそよりともせぬ地の乾き
薄き日に田水の匂ひ夏隣
ばら咲かせ五感萎えゆく健やかに
梅雨寒の雨音ひびく膝頭
梅雨湿る外して重き腕時計
呼鈴の返事のやうに夏うぐひす
花栗の無住の闇に匂ひ立つ
再会の駅のロビーの夏帽子
ボールペン重たき滝のひびきかな
ゆらゆらと夕べ揚羽の黒と黒
いが栗のまだ重さなきうすみどり
バス少し遅れ秋暑の午後三時
灯を消してよりの畳の秋湿り
黙祷の年忌の菊の白さかな
林道の日の矢幾筋草の花
予後十年生きて三年日記買ふ
真向へば眼恐ろし寒雀
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